【楽曲解説】My hair is bad『次回予告』歌詞の解釈とは?

 

My hair is badの新作音源「hadaka e.p.」が11月7日にリリースになります。

今日はその中から、リード曲『次回予告』の歌詞の考察してみたいと思います。

 

My hair is badのリリース情報はこちら

www.myhairisbad.com

 

1. 楽曲と歌詞について

『次回予告』は、あえて粗い画像で表現したMVが話題になっています。

※これまでと印象が違いすぎるからか、バヤさん別人説が流れてました(笑)。あと椎木さんがいい感じに昭和っぽいです。

 

▼楽曲はこちら

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▼歌詞

 

My hair is bad『次回予告』

詞・曲:椎木知仁

 

眠れずに眺めてた あのテレビ

僕らはいつまでも忘れられないまま

 

また今日が

 

日曜のままの身体の朝

起き抜けの肌 熱めのシャワー

身の残ったバナナの皮

スヌーズ機能のままのアラーム

雑な歯磨き 塵紙がない

戸締りの鍵 木々の真緑

休みは七分の二 なのに

遊びたい 休みたいの二分の二の日々

 

新聞もニュースも

他人事の様に流れ踊ってる

今起こる戦争暴動と喧騒

それより週末はなにしよう

自分自身の熱愛期待してる

浮気はしないししないでね

若さ故の薄暗さより

大人方の明るさの方が違和感だ

 

将来の夢や生活の為

ぶつけた痣や計画の仇

先の話より昔の話ばっかりになった

でもずっと

 

眠れずに眺めてた あのテレビ

僕らはいつまでも忘れられないまま

奪い取られてた

でもいつか

僕もきっと気付かずに

奪い取ったんだろう

失くなったことばかり

ずっと想い馳せないでいて

続きは これから

 

冬になる度 校庭に積もる雪

長電話がより近付けていく距離

本当の気持ちだって 機械越しに電波に話すほど

僕らは今に頼ってる

 

心の奥にある鍵の付いたおもちゃ箱

勇者の剣 お城の積み木

ピース足りないパズルの続き etc

いつか無くなる日が来るよ

いつか忘れる日が来るよ

でもそれはきっと大切な誰かに

あげる日なんだ

 

僕ら年老いても

この街は変わり続けていくだろう

僕らも変われたら

だけどその僕が 変わるチャンスは何度あるんだろう?

失敗しないなんて 後悔しないなんて

いくら望んだってあり得ないって

これからも何度だって失くしていくけれど

僕らの続きはいつだって

今日だ

 

2. 歌詞の解釈について

それでは、ここから具体的に歌詞を解説していきたいと思います。

【A】1サビ

眠れずに眺めてた あのテレビ

僕らはいつまでも忘れられないまま

 

また今日が 

冒頭の描写は、深夜に誰かが眠れずにTVを見ているところから始まります。聴く人はみなこの一文で、真っ暗な部屋の中で横になりながらTVをぼーっと眺めている様子を想像したのではないでしょうか。

「暗い部屋でベッドに横たわって…」という親切な情景描写なしに、映像を想像させる―このあたりの言葉選びが、いつも本当に巧みだなと思っています。

 

語り手はそのなんて事のない光景や、TVの内容ををずっと覚えていて忘れられません。

そしてそのまま、「また今日が(終わって)」いくのでしょう。

 

TVの内容や語り手が誰かが明らかにされていませんが、一度先に進みます。

(以前のブログでも書いた通り、My hair is badは自己開示の強い歌詞が特徴なので、これが椎木さんのことを歌っているのか、完全なフィクションなのか?は気になるところです)

 

ちなみに良く言われることですが、My hair is badの特徴の一つに、前奏なしの歌い始めがあります。こちらは今回も踏襲していますね。

YouTubeが一般的になった今の時代、入りのの数秒でいかに聴く人の気持ちを掴むかがポイントになると言われています。

「ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした」(『真赤』)や「渋谷駅前は今日もうるさい なかなか二人になれない」(『卒業』)は非常に強い言葉選びだと感じますが、今回の「眠れずに眺めてた あのテレビ」というフレーズには、やはり引っ掛かりを感じさせると思います。

 

【B】Aメロ

 日曜のままの身体の朝

起き抜けの肌 熱めのシャワー

身の残ったバナナの皮

スヌーズ機能のままのアラーム

雑な歯磨き 塵紙がない

戸締りの鍵 木々の真緑

休みは七分の二 なのに

遊びたい 休みたいの二分の二の日々

さて、シーンは月曜日の朝、こちらも情景描写でAメロが始まります。

今回面白いなと思ったのは、このAメロの言葉遊びです。

「朝」「肌」「シャワ」「バナナの皮」「ままのアラ(ーム)」 すべて「a」でそろえるのが見事ですね。ドラムも3拍目にアクセントをおいて韻を強調しています。

 

朝はバナナ一本。苦手なんでしょうね。スヌーズ機能を使ったり、チリ紙がなかったりするところを見ると、ひとり暮らしなのでしょう。

休みは七分の二、かつ月曜の朝に家を出ているので、平日に仕事に出かけているようです。

仕事にはあまりやりがいを感じておらず、仕方なくやっているという感じでしょうか。

遊びたい、休みたいが先行しています。

 

この内容を見る限り、ここで描かれているのはバンドマンの日常ではなく、会社ではたらく平凡な若いサラリーマンの日常ではないでしょうか。

 

【C】Bメロ

新聞もニュースも

他人事の様に流れ踊ってる

今起こる戦争暴動と喧騒

それより週末はなにしよう

自分自身の熱愛期待してる

浮気はしないししないでね

若さ故の薄暗さより

大人方の明るさの方が違和感だ

 どうやら、ここで描かれている若者は、世の中の事件にも無関心なようです。

「今起こる戦争暴動と喧騒 それより週末はなにしよう」は、本当に今の時代の若者のリアルをうまく掬い上げていると思います。

恋愛にしても「自分自身の熱愛期待している」と自分のことなのに受け身の姿勢。浮気もしない。

そして自分も暗いと自覚しながら、それは若さ故であり、明るくふるまう大人に無理をしているような印象を持ちます。

欲もなく、世間にも無関心。

やはり、(世の中でに語られている)今の"典型的20代"の特徴ですね。

(個人的にはどんぴしゃなので、めちゃめちゃ共感できます(笑))

 

【D】Cメロ

将来の夢や生活の為

ぶつけた痣や計画の仇

先の話より昔の話ばっかりになった

でもずっと

 この若者も将来の夢があったけれど、十分な計画がなく、それが「仇」になったのかもしれません。

気づけば「先の話より昔の話ばかり」の懐古主義になってしまいます。

「でもずっと」の先にあるのは、(あの夢を心のどこかで忘れられない)ということだと解釈しています。

 

【E】1サビ

眠れずに眺めてた あのテレビ

僕らはいつまでも忘れられないまま

奪い取られてた

でもいつか

僕もきっと気付かずに

奪い取ったんだろう

失くなったことばかり

ずっと想い馳せないでいて

続きは これから

 さて、ここからがサビになります。

TVを見て持ったあの夢。その夢を、(いつの日か)「奪い取られていた」のかもしれません。

誰にとは詳しく書かれていませんが、それは周りの大人かもしれないし、社会かもしれません。

そして、この歌のすごいところは「でもいつか 僕もきっと気付かずに奪い取ったんだろう」と、その夢をあきらめたのは自分自身である、と鋭く指摘していること。

そんな誰かに対し、マイヘアは「失くなったことばかり ずっと想い馳せないでいて」と、未来に人生の続きがあることを歌います。

 

【F】Dメロ

冬になる度 校庭に積もる雪

長電話がより近付けていく距離

本当の気持ちだって 機械越しに電波に話すほど

僕らは今に頼ってる

 ここの部分が、少し難しいのですが、雪が「冬になる度 校庭に積もる」のは3人の地元の新潟の風景でしょう。

これは椎木さんの学生時代の思い出だと思います。

ここで伝えようとしているのは、過去の大切な思い出のワンシーンですら、電話という「技術」があって初めて成り立っていること。
自分の奥底から出てきた本当の気持ちですら、電波に乗せてしまう現代で、「昔だけ」(=今に頼らず)に生きることってそもそもできないよね、ということを歌っているのではないでしょうか。

 

【G】Eメロ

心の奥にある鍵の付いたおもちゃ箱

勇者の剣 お城の積み木

ピース足りないパズルの続き etc

いつか無くなる日が来るよ

いつか忘れる日が来るよ

でもそれはきっと大切な誰かに

あげる日なんだ

自分が大事にしまっている過去の想い出は、おとぎ話のような美しい物語。

捧げられる大切な誰かとの出会いのタイミングで、前向きにそれを捨てることができるのでしょう。

 

【H】ラスサビ

僕ら年老いても

この街は変わり続けていくだろう

僕らも変われたら

だけどその僕が 変わるチャンスは何度あるんだろう?

失敗しないなんて 後悔しないなんて

いくら望んだってあり得ないって

これからも何度だって失くしていくけれど

僕らの続きはいつだって

今日だ

いよいよラスサビです。

人は変わらければいけないけれど、普通はそう簡単に変われないものです。

だからこそ、傷つかないことを望んではいけない。

失くしていく瞬間こそ、自分が「変わるチャンス」なのでしょう。

美しい思い出の続きが、今生きる「今日」なのです。

 

3. 感想

いやー、本当に自分にドはまりな曲を出してきてくれました。。

世代的にも、境遇的にも本当にぴったりです。

 

今回の曲は、情景描写を見る限り特定の誰かの話ではなく、ごく普通の生活を過ごす若い“僕ら”の描写なのだと思います(椎木さんの過去の体験の描写でもない)。


20代中盤の“僕ら“の感じる「今」や、「所在なさ」を巧みに掬いながら、未来に希望を持とうよと歌っている。本当の同世代のマイヘアが、自分たちと同じことを感じているとわかると、ちょっとうれしいです。

 

高校時代の同級生が集まって当時組んでいたバンドで演奏をする「同窓会ライブ」があったのですが、そこである一人の友人がしていたMCが、今でも心に残っています。

 

「俺も昔が大好きだけど、なんでそう思えるかって思うと、その時一生懸命頑張っていたからだと。今を精一杯頑張って生きないと、過去がつまらないものになると思うんです。だから俺ら、過去を楽しい思い出に変えるためにも、今を精一杯生きようよ

 

この思いを大事にしている自分にとって、『次回予告』は本当に心に染みました。

いい歌なので、皆さん聞いてみてほしいです!!